二度目の秋も深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなってきたある日の夕暮れ、朴念は使いの帰り道を急いでいた。村人たちが冬支度のために慌ただしく動いている。
その道端に、一人の老婆が座り込んでいるのが見えた。寺の大檀那の小作をしている老婆だ。背中には、自分の体よりも大きな薪の束を背負っている。冬の暖を取るためのものだろう。朴念が通り過ぎようとすると、老婆が顔を上げ、しわくちゃな顔をほころばせた。「おや、寺の小坊主さんじゃありませんか」
朴念は思わず足を止めた。頭こそ丸めているが、自分は正式な僧侶ではない。ただの雑用係だ。小柄な体躯ゆえにそう見えるのだろうが、「小坊主」などという尊称で呼ばれる資格はない。
朴念は慌てて手を振った。「ばあさん、よしてください。俺は坊主なんかじゃねえ。ただの下働きだ」
だが、老婆はニコニコと笑ったまま言った。「何をおっしゃいますやら。お寺様で勤めておられるなら、立派な小坊主さんですよ」
「だから、違うって……」 朴念が言い募ろうとした時、老婆は「よいしょ」と小さく声を上げ、薪の重みに足を震わせながら立ち上がろうとした。だが、膝が折れ、再び尻餅をつきそうになる。
以前の直介なら、何も感じずに通り過ぎていただろう。「可哀想に」とすら思わなかったかもしれない。
だがその時、朴念の足の裏にズキンと痛みが走った気がした。自分の足ではない。今、よろめいた老婆の足の痛みが、地面を通して伝わってきたかのような錯覚。寺での厳しい労働で、重い荷を背負う辛さを骨身に染みて知っている今の朴念には、あの老婆の背骨が上げる悲鳴が聞こえるようだった。
(……何をしているんだ、俺は)
考えるよりも先に体が動いていた。朴念は踵を返すと、老婆に駆け寄った。
「ばあさん、よこせ」
「へ? あ、いや、そんな……小坊主さんにそんな真似はさせられねぇ」
「いいから!」 有無を言わさず薪の束を奪い取ると、自分の背に担ぎ上げた。
ずしり、と肩に食い込む重み。だが不思議と、その重さが心地よかった。見過ごして通り過ぎた時に感じた、胸の奥の「後ろめたさ」という重荷に比べれば、この薪の重さなど羽根のようなものだ。
「すまねえ、すまねえ……ありがてぇなぁ、小坊主さん」 拝むように繰り返す老婆と並んで、来た道を戻る。「小坊主さん」と呼ばれるたび、背中のあたりがむず痒い。だが、その響きに含まれる温かさが、冷え始めた秋風の中で朴念の胸をじんわりと温めていた。
他人の痛みが我が痛みとなり、他人の荷を背負うことで自分の心が軽くなる。自分と他人は、別々の生き物でありながら、どこかで繋がっている。
後に朴念はこの時の感覚を「自他不二(じたふに)」という言葉で見つけることになるが、今の彼はただ、紅葉が舞う夕暮れの中で老婆の歩幅に合わせて歩くだけだった。
